定年後再雇用で手当がなくなるのは違法?役職手当・家族手当・住宅手当などを弁護士が解説

定年後再雇用で手当がなくなる場合の法的問題を解説する弁護士 労働

はじめに

定年後に再雇用されたところ、定年前には支給されていた手当が支給されなくなった、というケースがあります。

例えば、

  • 定年前には役職手当が支給されていたが、再雇用後は支給されなくなった
  • 家族手当がなくなった
  • 住宅手当がなくなった
  • 精勤手当・皆勤手当がなくなった
  • 同じ仕事をしているのに、定年前に支給されていた手当が再雇用後には支給されない

といったケースです。

このような場合、

「定年後再雇用だから手当がなくなるのは仕方がないのか」

「定年前と同じ仕事をしているのだから、手当も同じように支給されるべきではないのか」

と疑問に思う方もいるでしょう。

結論として、定年後再雇用を理由として手当をなくすことが、すべて違法になるわけではありません。

一方で、「再雇用者だから」という理由だけで、すべての手当を一律に不支給とすることが認められるわけでもありません。

手当については、それぞれの手当が何のために支給されているのかが重要になります。

実際、定年後再雇用をめぐる重要な最高裁判例である長澤運輸事件では、同じ再雇用者について、ある手当の不支給は不合理とされる一方、別の手当の不支給は不合理ではないと判断されました。

この記事では、定年後再雇用における手当の取扱いについて、代表的な手当ごとに弁護士が解説します。


1 定年後再雇用だから手当をなくしてもよい、というわけではない

定年後再雇用では、定年前と比べて賃金が下がることがあります。

これは、定年後に再雇用される際に、定年前とは異なる労働条件を設定すること自体が直ちに禁止されているわけではないためです。

しかし、手当については注意が必要です。

例えば、定年前の正社員には、

  • 精勤手当
  • 役職手当
  • 家族手当
  • 住宅手当
  • 職務手当

などが支給されている一方、定年後再雇用者にはこれらが一切支給されないという場合です。

このような待遇差が不合理かどうかを判断する際には、単に「正社員と再雇用者である」という違いを見るのではなく、その手当がどのような目的で支給されているのかを確認する必要があります。

厚生労働省も、定年後再雇用者について、各賃金項目の趣旨によって考慮すべき事情やその考慮方法が異なり得るため、各賃金項目ごとに不合理性を判断する必要があるとしています。


2 手当の不支給が問題となるポイント

手当について待遇差が問題となった場合には、主に次のような点を確認します。

① その手当は何のために支給されているのか

これが最も重要です。

例えば、役職に就いていることに対して支給される手当と、一定の勤務をしたことに対して支給される手当では、性質が異なります。

② 定年前と再雇用後で、その手当の支給目的に関係する事情が変わったか

例えば、定年前は課長として勤務していたものの、再雇用後は役職から外れているのであれば、役職手当を支給しないことについては一定の理由があります。

一方、定年前と再雇用後で同じ業務を行い、出勤状況に応じて支給される手当については、単に「再雇用者だから」という理由だけでは説明が難しい場合があります。

③ 定年前後で職務内容や責任が変わったか

同じ会社で働いていても、定年前後で仕事内容や責任、配置変更の範囲などが変わることがあります。

これらも待遇差を検討する際の重要な事情となります。

④ 手当の不支給によってどの程度の待遇差が生じているか

手当一つだけを見れば少額であっても、複数の手当が一斉になくなることで、定年前後の待遇差が大きくなることもあります。

ただし、最終的な法的評価は、単純な減額額だけで決まるわけではありません。


3 長澤運輸事件では手当ごとに判断が分かれた

定年後再雇用者の手当について考える上で、重要な判例が長澤運輸事件・最高裁平成30年6月1日判決です。

この事件では、定年退職後に再雇用された嘱託乗務員について、正社員との間で基本給や各種手当に待遇差が設けられていました。

再雇用後も正社員と職務内容が同じで、勤務場所や担当業務の変更についても同様の扱いがされていたという事案です。

最高裁は、各待遇について一律に結論を出すのではなく、それぞれの手当の趣旨や性質等を踏まえて判断しました。

この事件から分かる重要なポイントは、

「定年後再雇用者だから手当を支給しなくてもよい」という一律のルールは存在しない

ということです。


4 精勤手当・皆勤手当はどうなる?

精勤手当や皆勤手当は、一定期間、欠勤せずに勤務したことなどを評価して支給される手当です。

長澤運輸事件では、正社員には精勤手当が支給されていた一方、定年後再雇用者には支給されていませんでした。

最高裁は、この待遇差を不合理と判断しました。

その理由として、精勤手当には、休日以外は欠勤せず出勤することを奨励する趣旨があり、正社員と定年後再雇用者との間で、そのような出勤を奨励する必要性に違いはないと判断されています。

つまり、

「定年後再雇用者だから、精勤手当を支給しない」

というだけでは、待遇差を合理的に説明できない場合があります。

特に、再雇用後も同じように勤務しており、精勤・皆勤を奨励する必要性が正社員と変わらないのであれば、不支給が問題となる可能性があります。


5 役職手当はどうなる?

一方、役職手当については、精勤手当とは異なる判断がされました。

役職手当は、一般的には課長、部長などの役職に就いていることや、それに伴う職責・権限等を理由として支給されるものです。

長澤運輸事件でも、役付手当については、正社員のうち指定された役付者に対して支給されるものであり、年功給・勤続給的な性質を持つものではないことなどから、再雇用者に支給しないことが不合理ではないと判断されました。

例えば、定年前には課長として勤務していたものの、定年後は役職から外れ、一般の従業員として勤務しているのであれば、

「役職に就いていることに対する手当なので、役職を外れた再雇用者には支給しない」

という説明が可能になります。

このように、定年前後で実際に役職や責任が変わっているかどうかが重要になります。


6 住宅手当はどうなる?

住宅手当についても、長澤運輸事件では、不支給が不合理ではないと判断されました。

住宅手当は、一般的には住宅費を補助する趣旨で支給されるものです。

長澤運輸事件では、正社員については幅広い世代の労働者が存在する一方、定年後再雇用者については老齢厚生年金の支給が予定され、それまでの間も調整給が支給されていたことなどが考慮されました。

この判例から分かるのは、

住宅手当については、定年後再雇用者に支給しないことが当然に違法になるわけではない

ということです。

ただし、長澤運輸事件の事情をそのまま別の会社に当てはめればよいという意味ではありません。

会社ごとに住宅手当の支給目的や制度設計が異なるため、個別に検討する必要があります。


7 家族手当はどうなる?

家族手当についても、長澤運輸事件では、不合理ではないと判断されています。

家族手当は、一般的には扶養家族の存在などを考慮し、労働者の生活を支える目的で支給されるものです。

長澤運輸事件では、正社員と定年後再雇用者との間で家族手当の支給に差が設けられていましたが、一定の事情を踏まえ、その待遇差は不合理ではないと判断されました。

もっとも、

「家族手当は再雇用者には支給しなくてよい」

という一般的なルールが示されたわけではありません。

あくまで、その会社における家族手当の趣旨・目的や、正社員と再雇用者との違いを踏まえた判断です。


8 「同じ仕事なのに手当が違う」場合はどう考える?

定年後再雇用では、

「定年前も再雇用後も同じ仕事をしているのだから、手当も同じであるべきではないか」

という問題がよく生じます。

確かに、仕事内容が同じであることは重要な事情です。

しかし、仕事内容が同じだから、すべての手当を同じにしなければならないというわけではありません。

例えば、

  • 精勤手当 → 出勤を奨励する趣旨
  • 役職手当 → 役職・責任に対する対価
  • 住宅手当 → 住宅費の補助
  • 家族手当 → 扶養家族等を考慮した生活補助

というように、手当によって支給目的が異なります。

そのため、

「仕事が同じか」+「その手当が何のために支給されているか」

の両方を見る必要があります。

長澤運輸事件は、まさにこのことを示した判例といえます。


9 手当の名前だけで判断してはいけない

実務上、特に注意したいのが、手当の名称だけを見て判断しないことです。

例えば「職務手当」という名称であっても、実際には、

  • 特定の資格を持っていることに対する手当
  • 特定の業務を担当することに対する手当
  • 管理職としての責任に対する手当
  • 単なる基本給の補完としての手当

など、会社によって性質が異なる可能性があります。

したがって、

「職務手当だから再雇用者には支給しなくてもよい」

というような判断はできません。

重要なのは、その手当が実際には何を評価して支給されているのかです。

この点を確認するためには、就業規則や賃金規程だけでなく、会社の制度設計や過去の運用を確認する必要がある場合があります。


10 複数の手当を一律に廃止する場合には注意が必要

定年後再雇用に際して、

「再雇用者については基本給を○%減額し、さらに役職手当、家族手当、住宅手当、精勤手当等をすべて支給しない」

という制度を設けている会社もあります。

このような場合、会社側としては、

「再雇用者については定年前より賃金を下げる制度になっている」

と説明することが考えられます。

しかし、制度として一律に定めていることだけで、各手当の不支給が当然に適法になるわけではありません。

それぞれの手当について、

  • 何を目的として支給しているのか
  • 再雇用者にもその目的が妥当するのか
  • 定年前後で職務・責任等に違いがあるのか
  • その違いが手当の不支給を正当化するものなのか

を確認する必要があります。

特に、手当の一部については不支給に合理性がある一方、別の手当については合理性が認められないということもあり得ます。


11 定年後再雇用の手当を検討するときに確認すべき資料

手当の不支給が問題となった場合には、次のような資料を確認するとよいでしょう。

就業規則

手当の支給条件がどのように定められているかを確認します。

賃金規程

各手当について、支給対象者、支給額、支給条件等を確認します。

再雇用規程

定年後再雇用者について、どのような賃金体系が設定されているかを確認します。

雇用契約書・労働条件通知書

定年前と定年後の契約条件を比較します。

給与明細

実際にどの手当が支給されていたのかを確認します。

職務内容が分かる資料

定年前後で仕事内容、責任、権限等に違いがあるかを確認します。

会社からの説明資料

なぜ再雇用者について手当を支給しないのか、会社がどのように説明しているかを確認します。


12 会社側は「手当の趣旨」を説明できるようにしておくことが重要

会社側から見ると、定年後再雇用者の賃金制度を設計する際には、単に、

「再雇用者にはこの手当を支給しない」

と規定するだけでは十分ではありません。

なぜその手当を支給するのか、そして、なぜ再雇用者については支給対象から外すのかを説明できるようにしておくことが重要です。

例えば役職手当であれば、

「役職に伴う責任・権限に対して支給するものであり、再雇用後は役職に就かないため支給しない」

という説明が考えられます。

一方、精勤手当について、

「再雇用者は定年後の従業員だから支給しない」

というだけでは、その手当の支給目的との関係で説明が十分ではない可能性があります。

このように、手当の支給目的と再雇用者を支給対象から外す理由を結び付けて説明できる制度設計が重要です。


13 労働者側は「なくなった手当」を一つずつ確認する

一方、定年後再雇用によって手当がなくなった労働者の方は、

「年収が下がった」

という点だけでなく、どの手当がなくなったのかを一つずつ確認することが重要です。

例えば、

項目定年前再雇用後
基本給30万円22万円
役職手当5万円0円
家族手当2万円0円
住宅手当3万円0円
精勤手当1万円0円

という場合です。

この場合、「月額19万円減った」というだけで考えるのではなく、

  • 役職手当がなくなった理由
  • 家族手当がなくなった理由
  • 住宅手当がなくなった理由
  • 精勤手当がなくなった理由

をそれぞれ確認します。

手当によって支給目的が異なるため、一つの手当について合理性が認められないからといって、他の手当についても同じ結論になるわけではありません。

逆に、複数の手当がなくなっている場合には、それぞれについて検討することで、問題となる待遇差を具体的に把握することができます。


14 「定年後再雇用者には手当を支給しない」というルールだけでは判断できない

定年後再雇用における手当の問題では、

「再雇用者には手当を支給しないという規程があるから適法」

とも、

「正社員と同じ仕事をしているから手当も全部支給しなければならない」

とも、一概にはいえません。

重要なのは、手当ごとの性質・目的と、定年前後の労働条件の違いを具体的に比較することです。

長澤運輸事件でも、同じ定年後再雇用者について、手当ごとに不合理性の判断が分かれています。

そのため、定年後再雇用者の待遇を検討する場合には、賃金総額だけでなく、基本給、賞与、各種手当などを個別に確認することが重要です。


まとめ

定年後再雇用によって、定年前に支給されていた手当がなくなったとしても、そのことだけで直ちに違法になるわけではありません。

一方で、「定年後再雇用者だから」という理由だけで、すべての手当を一律に不支給とすることが当然に認められるわけでもありません。

重要なのは、それぞれの手当について、

  1. 何を目的として支給されているのか
  2. 定年前と再雇用後でその目的に関係する事情が変わったのか
  3. 定年前後で職務内容や責任等に違いがあるのか
  4. その違いが手当の不支給を正当化するのか

を具体的に検討することです。

特に長澤運輸事件では、精勤手当については不合理と判断される一方、役付手当、住宅手当、家族手当については不合理ではないと判断されるなど、手当の性質によって結論が分かれました。

そのため、定年後再雇用によって手当がなくなった場合には、「給料が何%下がったか」だけを見るのではなく、どの手当が、なぜなくなったのかを確認することが重要です。

定年後再雇用に伴う手当の不支給について疑問がある場合には、就業規則、賃金規程、再雇用規程、雇用契約書、給与明細等を確認した上で、具体的な労働条件を比較することをおすすめします。

大阪で定年後再雇用に伴う手当の不支給や、同一労働同一賃金についてお悩みの方は、労働問題を取り扱う弁護士にご相談ください。

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