
1. はじめに:2026年以降は「労働時間・休日」だけでなく“制度の前提”も見直し対象に
近時、厚生労働省の検討(労働基準関係法制研究会の報告書公表等)を受け、労働政策審議会を中心に、労働基準法制の見直しが議論されています。
検討テーマは、労基法上の“労働者”概念、事業場単位の考え方、過半数代表者の在り方、テレワーク、副業、つながらない権利など、企業の労務管理の“設計思想”に触れる論点まで含まれています。
本ページでは、企業実務に与える影響が大きいと考えられる論点を整理し、企業側としての備え(規程整備・運用設計・証拠化)を解説します。
※以下は「検討中の論点」であり、最終的な法制化内容・施行時期は変動し得ます。
2. 実務への影響が大きい“検討中”論点(ピックアップ解説)
論点① 連続勤務(いわゆる“〇連勤”)・法定休日の取り扱いの見直し
「休日」に関する規律の明確化(法定休日の特定の仕方、連続勤務の抑制など)は、運用に直撃します。研究会報告でも「休日」論点が整理されています。
影響が出やすい業種
- 飲食業・小売業(シフト制)
- 医療・介護(24時間体制)
- 物流業(繁忙期集中)
- 建設業(工期集中型)
- 警備業
特に人手不足業種は影響が大きいと考えられます。
① 現状の問題
現在の制度では、「4週4日休み」などの仕組みを使うと、理論上はかなり長期間の連続勤務が可能です。
実務では、
- 13日・14日連続勤務が発生
- 法定休日が曖昧
- 代休と振替休日の区別が不明確
といった問題が少なくありません。
結果として、
- 過労リスク
- 割増賃金計算の混乱
- 労基署の是正指導
につながっています。
② 改正の検討方向
議論では、
- 連続勤務日数に上限を設ける方向
- 法定休日を事前に明確化する方向
- 休日のルールをより整理・単純化する方向
が検討されています。
③ 実務への影響
- シフト設計の見直しが必要
- 人員不足企業ほど影響が大きい
- 管理職の「穴埋め勤務」が問題化しやすい
人員配置そのものに影響が出る可能性があります。
④ 今からの準備
- 法定休日を就業規則で明確にする
- 連続勤務の実態をデータで確認する
- 代休・振替休日の運用を統一する
論点② 勤務間インターバルの「実効性ある導入」へ(義務化・強化の可能性)
勤務間インターバルは現状、努力義務の枠組みが中心ですが、審議会でも「実効性ある導入促進のためにどのような措置を講ずべきか」が正面から論点化されています。
影響が出やすい業種
- IT・システム開発(夜間対応)
- 広告・制作業(納期集中型)
- コールセンター
- 医療機関(夜勤)
- インフラ・保守業(障害対応)
「夜に動く業務」を抱える業種は特に影響が大きいと考えられます。
① 現状の問題
深夜まで働き、翌朝早く出勤する働き方が合法的に成立しています。
その結果、
- 慢性的な睡眠不足
- 労災リスク
- メンタル不調
が社会問題化しています。
② 改正の検討方向
- 一定時間(例:11時間程度)の休息を原則義務化する方向
- 例外を認める場合も代替措置を求める方向
が議論されています。
③ 実務への影響
- 夜間業務が多い部署に直撃
- 会議時間や締切運用の見直しが必要
- 管理職の長時間労働が表面化
勤怠管理システムの改修も必要になる可能性があります。
④ 今からの準備
- 終業〜翌始業の時間を可視化
- 深夜勤務の常態化部署を特定
- 緊急対応時の代替休息ルールを作成
論点③ 「つながらない権利」:時間外連絡ルールの整備(法制化・ガイドライン化を含む議論)
勤務時間外の連絡について、審議会資料でも、海外の法制化例に触れつつ「どう考えるか」が論点として示されています。
影響が出やすい業種
- 営業職中心の企業
- コンサルティング業
- 士業事務所
- ベンチャー企業
- グローバル企業(時差対応)
「常時オンライン文化」のある企業ほど影響が大きいでしょう。
① 現状の問題
退勤後のチャット・メールが常態化し、
- 実質的な“隠れ残業”
- 返信圧力
- 労働時間該当性の争い
が起きています。
② 改正の検討方向
- 原則、時間外連絡を制限する方向
- 緊急時のみ例外とする方向
- ガイドラインまたは法整備の検討
が進んでいます。
③ 実務への影響
- 管理職のマネジメント方法が変わる
- 評価制度との整合性が問われる
- 労働時間該当性の争いが増える可能性
④ 今からの準備
- 時間外連絡ルールの明文化
- 緊急時の定義設定
- 評価制度の見直し
論点④ 副業・兼業の割増賃金(労働時間通算)ルールの見直し・運用の再設計
研究会報告では「副業・兼業の場合の割増賃金」が独立論点として挙げられています。
影響が出やすい業種
- IT業界(副業率が高い)
- クリエイティブ職種
- スタートアップ企業
- 高度専門職(エンジニア・デザイナー)
副業容認企業ほど制度見直しが必要です。
① 現状の問題
現行制度では副業時間を通算する建前ですが、
- 他社の労働時間を把握できない
- 計算が実務的に困難
という矛盾があります。
② 改正の検討方向
- 通算義務の見直し
- 主たる事業主のみで割増計算する方向
- 健康管理中心への転換
が議論されています。
③ 実務への影響
- 副業管理の仕組み変更
- 健康管理責任の整理
- 規程の全面改定が必要
④ 今からの準備
- 副業届出制度の整備
- 労働時間申告ルールの設計
- 健康確保措置の明確化
論点⑤ 「労働者」概念(労基法9条)・プラットフォーム就労等を踏まえた保護の射程
研究会報告では、労基法における「労働者」性の課題が主要論点として整理されています。
影響が出やすい業種
- ITフリーランス活用企業
- 配送プラットフォーム事業
- 美容・エステ業界
- メディア制作業
- 建設下請構造業界
外部人材依存度が高い企業は要注意です。
① 現状の問題
業務委託としながら実態は雇用に近いケースが増加しています。
結果として、
- 未払残業代請求
- 社会保険問題
- 労災問題
に発展する事例があります。
② 改正の検討方向
- 労働者性判断基準の整理
- 多様な働き方への法的保護再設計
が議論されています。
③ 実務への影響
- 委託契約の再点検が必要
- 指示命令系統の見直し
- 偽装請負リスクの顕在化
④ 今からの準備
- 契約と実態の整合性チェック
- 委託先への指示方法の整理
- 契約書改定
論点⑥ 過半数代表者・労使協定(36協定等)の手続の適正化/一括手続の在り方
研究会報告では「過半数代表者の適正選出」「複数事業場での一括手続」等が論点化され、労働条件分科会でも各側意見が整理されています。
影響が出やすい業種
- 長時間労働が多い業種全般
- 建設業
- 医療業
- IT業界
- 運輸業
- コンサル業
残業依存型ビジネスモデルほど影響が大きいでしょう。
① 現状の問題
形式的に締結しているが、
- 代表者選出が適正でない
- 協議実態がない
- 記録が残っていない
という企業が少なくありません。
② 改正の検討方向
- 選出手続の厳格化
- 実質的協議の重視
- 証跡整備の強化
という方向です。
③ 実務への影響
- 手続き違反が無効主張の根拠になる
- 残業代紛争で争点化
④ 今からの準備
- 代表者選出手続の明文化
- 協議記録の保存
- 更新管理の徹底
4. よくあるご相談(企業側)
- 「シフト上、どうしても連続勤務が出る。どこまで許される設計にすべき?」
- 「インターバルを入れると回らない。例外設計や代替措置は?」
- 「“つながらない権利”に備えて、どこまで社内ルールを作ればよい?」
- 「副業をどこまで把握すべき?未申告だった場合のリスクは?」
- 「業務委託が増えたが、労働者性リスクの点検方法は?」
5. まとめ:改正が“確定してから”では遅い場合があります
今回の見直し議論は、会社の労務管理における「休日の設計」「休息の確保」「連絡と指揮命令の境界」「副業時代の通算管理」「労使協定手続の適正化」など、運用そのものを変える可能性がある論点を含みます。
改正確定後に慌てるより、今の運用を一度点検することが最善のリスク対策です。
当事務所では、規程改定(就業規則・各種規程)だけでなく、運用設計(シフト・勤怠・連絡ルール・36協定手続)まで含め、企業側の実務に即した整備をご支援しています。まずは現状の運用をヒアリングし、優先順位をつけた対応計画をご提案いたします。

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