「裁判で勝ったのに、相手が支払ってくれない」
「強制執行をしたいけれど、相手がどこに預金を持っているのか分からない」
「相手に不動産や勤務先があるはずなのに、財産を把握できない」
このような場合に利用できる制度の一つが「財産開示手続」です。
財産開示手続では、債務者を裁判所に出頭させ、保有している財産について陳述させることができます。
もっとも、財産開示手続を申し立てれば、裁判所が債務者の財産をすべて調査してくれるわけではありません。また、財産開示によって財産が判明しても、その財産が自動的に差し押さえられるわけでもありません。
そこで本記事では、財産開示手続の利用条件や具体的な流れに加えて、提出された財産目録の内容をどのように確認するのか、さらに「第三者からの情報取得手続」を利用して債務者の財産を調査する方法について、弁護士が解説します。
1 財産開示手続とは
財産開示手続とは、金銭の支払を受ける権利を持っている債権者が、債務者の財産に関する情報を取得するための手続です。
裁判所が財産開示手続の実施を決定すると、債務者は財産開示期日に裁判所へ出頭し、自分の財産について陳述する必要があります。
債務者は、あらかじめ「財産目録」を提出し、財産開示期日ではその内容を前提として財産について説明します。
財産開示手続によって、例えば次のような財産の存在を把握できる可能性があります。
・預貯金
・不動産
・給与
・株式その他の有価証券
・売掛金その他の債権
・その他の財産
ただし、財産開示手続そのものによって預金等が差し押さえられるわけではありません。
財産開示手続によって財産が判明した場合には、その情報を利用して、別途、預貯金や給与等の差押え、不動産の強制競売などを申し立てる必要があります。
2 どのような場合に財産開示手続を利用できるのか
財産開示手続を利用するためには、原則として、強制執行によって実現できる金銭債権を有していることが必要です。
典型的には、次のようなものが挙げられます。
・判決
・和解調書
・調停調書
・支払督促
・強制執行認諾文言のある公正証書
などの「債務名義」を取得している場合です。
もっとも、債務名義を持っているだけで、いつでも財産開示手続を利用できるわけではありません。
例えば、既に強制執行を行ったものの、債権を全額回収できなかった場合や、現在把握している財産に強制執行をしても債権を全額回収できないことを疎明できる場合など、法律上の要件を満たす必要があります。
3 財産開示手続の具体的な流れ
財産開示手続は、おおむね次のように進みます。
① 財産開示手続を申し立てる
債務者の住所地を管轄する地方裁判所に申立てを行います。
申立ての際には、債務名義のほか、財産開示手続の要件を満たすことを示す資料などを提出します。
② 裁判所が実施決定をする
裁判所が申立てに理由があると判断すると、財産開示手続の実施決定がされます。
その後、財産開示期日が指定され、債務者には裁判所への出頭が命じられます。
③ 債務者が財産目録を提出する
財産開示期日に先立ち、債務者は財産目録を裁判所に提出します。
大阪地方裁判所では、財産開示期日の約10日前を財産目録の提出期限として指定する運用が案内されています。
提出された財産目録は、一定の者であれば財産開示期日前に閲覧・謄写することができます。
したがって、債権者側としては、財産開示期日まで待つのではなく、財産目録を事前に確認した上で、当日の質問内容を準備することが重要です。
④ 財産開示期日に債務者が陳述する
財産開示期日では、債務者が裁判所に出頭し、自分の財産について陳述します。
債権者側も期日に出席することができ、裁判所の許可を得て債務者に質問することができます。
ただし、何でも自由に質問できるわけではありません。
例えば、「預金があると聞いているが、本当にないのか」「以前勤務していた会社から退職金を受け取っていないか」など、具体的な根拠に基づいて財産の内容を確認する質問を準備しておくことが重要です。
裁判所は、根拠のない探索的な質問や、債務者を困惑させるような質問は許可しないとしています。
4 財産目録の内容は、そのまま信用してよいのか
財産開示手続を利用する際に重要なのが、この点です。
財産開示手続では、債務者自身が財産目録を作成して提出します。
そのため、「財産目録に何も書かれていないから、債務者には財産がない」と直ちに判断することは適切ではありません。
財産開示手続は、裁判所が金融機関や法務局等に照会して、債務者の財産を網羅的に調査する手続ではないからです。
そこで、債権者側では、次のような方法で財産目録の内容を確認することが重要になります。
① 財産目録を事前に確認する
まず、債務者が提出した財産目録を財産開示期日前に確認します。
例えば、
・銀行名や支店名
・預金残高
・不動産の所在地
・勤務先
・株式等の保有状況
・売掛金等の債権
・保険その他の財産
などを確認します。
その上で、債権者がそれまでに把握していた情報と比較します。
② 財産開示期日に具体的な質問をする
財産目録に不自然な点や不足している情報がある場合には、財産開示期日に質問することが考えられます。
例えば、債権者が過去の取引資料から「○○銀行に口座を持っている」と把握しているにもかかわらず、財産目録にその口座が記載されていない場合には、その口座について具体的に質問することが考えられます。
また、勤務先についても、過去に勤務していた会社、現在の勤務先、退職の時期などについて具体的に確認することで、財産目録との整合性を確認できる場合があります。
重要なのは、単に「他に財産はありませんか」と質問するのではなく、債権者側で把握している具体的な事情を踏まえて質問することです。
③ 第三者からの情報取得手続を利用する
財産目録の内容に疑問がある場合には、第三者からの情報取得手続を利用して、債務者本人ではなく、金融機関や市区町村、登記所等から情報を取得することも検討できます。
例えば、債務者が「預金はない」と説明している場合でも、第三者からの情報取得手続によって、一定の金融機関に存在する預貯金口座の情報を取得できる場合があります。
このように、債務者本人の申告と第三者から得られた客観的な情報を比較することで、財産目録の内容を検証することができます。
④ 判明した財産について強制執行を検討する
財産開示や第三者からの情報取得によって財産が判明した場合には、その情報を利用して速やかに差押え等を検討します。
例えば、預金口座が判明した場合には預金債権の差押え、勤務先が判明した場合には給与債権の差押え、不動産が判明した場合には不動産執行などを検討します。
この意味で、財産開示手続は「財産を確認して終わる手続」ではなく、「判明した財産を強制執行につなげるための手続」と考えることが重要です。
5 財産開示手続で虚偽の説明をした場合
財産開示期日に債務者が出頭しなかった場合や、財産について虚偽の陳述をした場合には、刑事罰の対象となることがあります。
現在の制度では、正当な理由なく財産開示期日に出頭しないことや、宣誓した上で虚偽の陳述をすることについて、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金が定められています。
そのため、財産開示手続は、単なる任意のアンケートのようなものではありません。
もっとも、債務者が虚偽の陳述をしたことが疑われるからといって、裁判所が当然にすべての財産を職権で調査してくれるわけではありません。
実際に虚偽の申告を問題にするためには、どの財産について、どのような根拠から虚偽の陳述が疑われるのかを具体的に確認していく必要があります。
6 第三者からの情報取得手続とは
第三者からの情報取得手続とは、債務者本人ではなく、金融機関、市区町村、登記所等の第三者から、債務者の財産に関する情報を提供してもらう制度です。
財産開示手続が「債務者本人に財産を申告させる制度」であるのに対し、第三者からの情報取得手続は「第三者が保有する情報から債務者の財産を調査する制度」と整理すると分かりやすいでしょう。
現在、主に次のような情報を取得することができます。
① 不動産に関する情報
登記所から、債務者が所有する土地・建物について、その所在地や家屋番号等の情報を取得することができます。
例えば、債務者が「不動産は持っていない」と財産目録に記載していたとしても、要件を満たして第三者からの情報取得手続を利用すれば、債務者名義の不動産の有無を調査することができます。
ただし、不動産に関する情報取得手続については、原則として、申立て日前3年以内に財産開示期日が実施されていることが必要です。
② 勤務先に関する情報
一定の要件を満たす場合、市区町村や日本年金機構等から、債務者の給与の支給者、すなわち勤務先に関する情報を取得することができます。
これは、債務者の勤務先が分からないため給与差押えができない場合に特に有用です。
もっとも、この勤務先情報の取得は、すべての金銭債権について無条件に利用できる制度ではありません。
現在の制度では、例えば養育費・婚姻費用等の扶養義務に係る請求権や、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権についての債務名義を有する債権者など、利用できる債権者に一定の制限があります。
また、原則として申立て日前3年以内に財産開示期日が実施されていることも必要です。
なお、ここで取得できるのは基本的に「勤務先に関する情報」であり、給与額そのものを直接調査する制度ではありません。
③ 預貯金に関する情報
銀行や信用金庫等の金融機関から、債務者が保有する預貯金口座について、支店名、口座番号、残高等の情報を取得することができます。
例えば、
「債務者がどの銀行を利用しているか分からない」
「財産目録には預金がないと記載されている」
「以前、○○銀行を利用していたことは分かっているが、現在も口座があるか分からない」
という場合などに利用を検討できます。
ただし、第三者からの情報取得手続を申し立てれば、全国のすべての金融機関について一括して検索できるわけではありません。
申立ての際には、情報を取得したい金融機関を第三者として特定する必要があり、複数の金融機関を対象とすることもできますが、その分、予納金等の負担が増えることがあります。
そのため、債務者の過去の取引履歴、給与振込先、居住地域、事業上の取引先など、これまでに把握している情報を手掛かりとして対象金融機関を検討することが重要です。
④ 上場株式・国債等に関する情報
債務者が保有する上場株式や国債等についても、一定の要件のもとで情報を取得することができます。
証券会社等の金融商品取引業者などが第三者となり、債務者名義の上場株式等について、銘柄や数量等の情報を取得することができます。
預貯金と同様、どの第三者に対して情報提供を求めるのかが重要になるため、債務者の過去の証券口座等について把握している情報があれば、それを申立ての検討材料とします。
7 第三者からの情報取得手続を利用する際の注意点
第三者からの情報取得手続は非常に有用ですが、どの情報でも自由に取得できるわけではありません。
財産の種類によって、
・誰から情報を取得するのか
・どのような情報が提供されるのか
・財産開示手続を先に行う必要があるのか
・どのような債権者が利用できるのか
などが異なります。
また、第三者から情報を取得しただけでは、原則として債権回収が完了するわけではありません。
例えば、預金口座が判明した場合には、その金融機関・支店等を特定して預金債権の差押えを行う必要があります。
したがって、情報取得手続は、単独で利用するというよりも、
「財産を調査する」
↓
「財産を特定する」
↓
「その財産を差し押さえる」
という一連の債権回収手続の中で位置付けることが重要です。
8 財産開示手続と第三者からの情報取得手続はどちらを利用するべきか
両者は、どちらか一方しか利用できないというものではありません。
例えば、債務者の財産がほとんど分からない場合には、まず財産開示手続によって債務者本人から財産について説明させ、その内容を確認することが考えられます。
その上で、
・財産目録の内容に疑問がある
・勤務先が明らかにならない
・不動産の有無を確認したい
・預金口座について客観的な情報を取得したい
・株式等の保有状況を確認したい
といった場合には、利用できる第三者からの情報取得手続を検討します。
特に重要なのは、財産開示手続で得られた情報と、第三者から得られた情報を照合することです。
例えば、財産目録では「預金100万円」とされている一方、第三者から取得した情報では複数の預金口座が確認された場合、その差異についてさらに確認する必要があります。
このように、財産開示手続と第三者からの情報取得手続を組み合わせることで、債務者の財産状況をより具体的に把握できる可能性があります。
9 離婚・財産分与では「情報開示命令」という制度もある
財産を把握できないという問題は、離婚事件でも生じます。
例えば、
「配偶者が預金を隠している」
「相手がどのような財産を持っているのか分からない」
「財産分与の対象となる財産を相手が開示してくれない」
といった場合です。
2026年4月からは、家事事件において「情報開示命令」の制度が設けられています。
家庭裁判所は、一定の家事事件について、必要がある場合に、当事者に対して収入・資産の状況や財産の状況について情報を開示するよう命じることができます。
例えば、財産分与に関する事件では、財産分与の判断に必要な財産の状況について開示を求めることができます。
また、養育費、婚姻費用、子の監護に関する費用等については、収入・資産に関する情報の開示を求めることができます。
この制度は、債務名義を取得した後に財産を差し押さえるための民事執行上の財産開示手続とは目的が異なります。
離婚や財産分与等の家事事件の中で、適切な判断をするために当事者の財産・収入等を明らかにするための制度と考えると分かりやすいでしょう。
10 情報開示命令に従わなかった場合
家事事件における情報開示命令についても、正当な理由なく情報を開示しなかった場合や、虚偽の情報を開示した場合には、過料の対象となることがあります。
もっとも、民事執行法上の財産開示手続における不出頭・虚偽陳述とは、制裁の内容や制度の目的が異なります。
したがって、
「裁判で債権を回収するための財産調査」
→ 財産開示手続・第三者からの情報取得手続
「離婚・財産分与等の家事事件で相手の財産を明らかにする」
→ 家事事件における情報開示命令
というように、場面に応じて制度を使い分けることが重要です。
11 2026年4月からは養育費等についてワンストップ執行も可能に
2026年4月から、養育費や婚姻費用等の扶養義務に基づく定期金債権については、一定の要件のもとで、財産開示や勤務先情報の取得と、判明した給与に対する差押えを一連の手続として進める「ワンストップ執行手続」が設けられています。
従来は、
財産を調査する
↓
勤務先を調査する
↓
給与差押えを申し立てる
という手続をそれぞれ検討する必要がありました。
現在は、一定の場合には、財産調査から給与差押えまでを一体的に進めることができるため、養育費や婚姻費用の未払いについては、以前よりも制度を利用しやすくなっています。
12 財産開示手続を利用する際に重要なのは「その後」
財産開示手続は、財産を開示させること自体が目的ではありません。
最終的な目的は、債務者の財産を把握し、その財産に対して強制執行を行い、債権を回収することです。
そのため、
①債務名義を取得する
↓
②財産開示手続を利用する
↓
③財産目録を確認する
↓
④財産開示期日に具体的な質問をする
↓
⑤必要に応じて第三者からの情報取得手続を利用する
↓
⑥判明した財産について差押え等の強制執行を行う
という流れで考えることが重要です。
特に、財産目録に記載された内容だけを見て「財産がない」と判断するのではなく、これまでに把握している情報と照合し、必要に応じて第三者からの情報取得手続を組み合わせることが、実効的な債権回収につながります。
まとめ
財産開示手続は、判決や公正証書などを取得したにもかかわらず、債務者が支払わず、しかも債務者の財産が分からない場合に利用できる重要な制度です。
ただし、財産開示手続だけで債権を回収できるわけではありません。
また、債務者が提出した財産目録についても、その内容を当然に信用するのではなく、財産開示期日における質問や、第三者からの情報取得手続等を利用して客観的な情報と照合することが重要です。
さらに、預貯金、不動産、勤務先、上場株式等については、それぞれ第三者から情報を取得する制度が用意されています。
「判決を取ったのに相手が支払わない」
「強制執行をしたいが、相手の財産が分からない」
「財産目録に記載された内容が本当なのか疑問がある」
という場合には、財産開示手続だけでなく、第三者からの情報取得手続や、その後の差押えまで含めて検討することが重要です。


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